大橋 奈央2020.08.23

伝統を重んじ不易流行の精神で
挑戦を続ける新政酒造

新政酒造株式会社 様

味より伝統を重んじる信念

—— 常に新しい取り組みでファンを魅了している佐藤さん。酒造り1 年目からあらゆるコンテストで金賞や最高賞を受賞したにもかかわらず、早々にコンテストのための酒造りに見切りをつけ、“付加価値を見出しやすい純米酒” へと舵を切られましたが、その狙いについて教えてください。

佐藤 たしかに新人ではあるけど、蔵に戻る前に酒類総合研究所で最先端の酵母や麹、麹菌についての情報を得ていたので、賞が獲れるのは当たり前なんですよね。もちろん結果は嬉しかったし自信になったけど、同時にバカらしく思えてきて。

だって、賞を獲るために高評価の原料米や最先端の酵母、そして最新の機械を使ったところで、他の蔵と味が似てくるし、蔵として大して伸びない。それに、コンテストで賞を獲ることと蔵の経営が成功して大ブランドになることはイコールとは限らない。だったら自分はもう少し個性的かつ他の蔵とは違う手法で良いお酒を造りたいと思いました。
—— なるほど。だから、日本酒業界で機械化が進むなか、あえて江戸時代から伝わる「生酛造り」や「木桶仕込み」、「蓋麹」などの伝統的な醸造製法を採用されているのですね。

佐藤 機械は一定のクオリティーが維持できるため効率的ですが、マニュアル通りにしか使えないから、機械以上のものは生まれない。我々は常にいろいろなことに挑戦する蔵なのでマニュアルに縛られることが非常に苦痛でした。だから機械化から自由度が高い手作業へと徐々に移行しました。

また、原料も酒米は全量「秋田県産米」、酵母は昭和初期に5 代目蔵元・佐藤卯兵衛が自蔵
で発見した現存する最古の市販清酒酵母「6 号酵母」にこだわっています。不利な素材と言われる「生酛」や「秋田県産米」、「6 号酵母」ですが、実際は不利でも何でもないんですよね。
たしかに手間や労力はかかるけどロマンがある。むしろより良いものができています。
—— ストーリーを知れば知るほど、新政の商品にロマンを感じます。またどの商品も思わず手に取りたくなるような心躍るパッケージで、デザインにもこだわられている印象です。

佐藤 ありがとうございます。でもね、極論、日本酒の味とパッケージはどうでもいいと思っているんですよ。僕はよく、日本酒の味やパッケージを「花」、伝統製法や地域性を「種」と表現しているんだけど、花は咲いては無くなり、また咲く。だから形状が毎年変わってもいい。一方でDNA に値する種がないと花は咲かない。だから種は継続させていく必要性があります。

あくまでも味やパッケージは表面的なもので、伝統製法や地元の素材を使っていること、そして農業に取り組んでいることが日本酒の本質的なことなんです。